ひよこ、すずりにむかいて

呼吸は残らないけど文字は残る

221回目の夜-はじめて、ひとりバーに行く-

この前、

家庭などについて3つほど記事を書いたわけでございますが……

 

あの夜はなかなか素敵な夜でした。

忘れないうちに書き留めておこうと思います。

 

 

あの日の私はとてもやさぐれていました。

 

同棲している彼氏がバイトから帰宅したとき、

「じゃあおれ、友達のところ泊まりに行くから」

と、出て行ってしまいました。

 

その件については元からいろいろあったり、

晩御飯はなににしようかな、とか、

食後は今日届いたお茶を取っておいて一緒に飲もうかな、とか

まあ私も期待を募らせすぎたところはあるのですが、

 

そんなこんなで、終電あと、私は一人になってしまいました。

 

寝ようにもなかなか眠れず、体力があまっていたので、

 

「よっしゃ!一人でバーデビューしちゃおうかな!」

 

と、ほぼ深夜テンションの勢いで、

 

化粧をして、暖かい中ダウンコートを着て

(夜道、シルエットが女性すぎないように)

家を出ました。

 

(女性の皆様、深夜に歩くのはできるだけ控えましょう。)

 

この町に引っ越してきてからちょうど一ヶ月くらい、

深夜に町を歩くのは初めてで、

ものすごい不良になったようでどきどきしました。

 

駅前は、明かりはついているものの静まり返っていて、

人はものすごくたまにすれ違うだけでした。

何故だかおじいちゃんが多かったかな。

 

バーの前に着きました。

 

閉店一時間前くらいでしたが、もう看板はclosedになっていました。

 

どうしようかな、と思って、

スマートフォンでこのあたりのバーを検索すると、

もう二軒ほどあり、

 

そのうちの、

「お酒に詳しくなくても、好みの味を伝えるとお勧めを出してくれる」

というバーが気になり、

徒歩十分くらいだったのもあり、

お店に電話をかけました。

 

電話は10コールくらいでつながりました。

 

「まだやっていますか?」

と聞くと、

「やってますよ」

と、男の人の声が返ってきたので、

向かうことにしました。

 

 

線路沿いを歩いていると、

真っ黒い猫が少し前を歩いていました。

 

「ねこ、ねこ」

と声をかけると、こちらを振り向き足を止め、

しばらく見つめあいました。

 

猫は一度、

「にゃあ」

と鳴きました。

 

そして猫は、えさをもらえないと分かると

マンションの間の細い道の中に

消えていきました。

 

猫が完全に見えなくなったあと、

再びバーへの道を一人歩きました。

 

その約五分後、

スマートフォンの地図に入力したのに

お店が見つからず、

しばらくぐるぐる歩いていると、

やっと見つけました。

 

店の前は少しだけ階段になっていて、

ほんのりあかりが外へ漏れています。

 

どきどきしながらドアを押しました。

 

「いらっしゃいませ」

おそらく電話の声の主でした。

 

カウンターの一番手前に、

恐る恐る座りました。

 

奥のほうには男女が二組、

カウンターの中には

かっちりした格好の店員さん(マスター?)が

数名いたと思います。

 

壁にはギターやあすすめのお料理が書いてあって、

緊張もあってきょろきょろしてしまいました。

 

落ち着かないでいると、

しばらくしてマスター(だと思う)が

メニューを持ってきてくれました。

 

メニューの下のほうに

「載っていないものもあります、お好みをお伝えください」

といったことが書いてあったので、

そうしよう、と思い

 

しかしカウンターの向こうで

お客さんと話しているマスターをなかなか呼べず、

しばらくメニューを見て時間をつぶしました。

 

「お決まりですか」

と、マスターが私の前に来て言ったので、

「すみません、詳しくなくて、おすすめのにしたいのですが」

と返しました。

「どんなものが好きですか」

「甘くて、変わった味の、強めのをください」

「変わった味ですか」

パクチーとかラム肉とかが好きなんです」

というと、少し笑われました。(いい意味で)

 

しばらくして、

円柱型の低いグラスに大きな氷がひとつ、

透き通った深い色のお酒が来ました。

 

「カクテルではないのですが、どうぞ」

 

そういってマスターは、先程話していたお客さんのほうへ戻っていきました。

 

おそるおそる口をつけると、

希望通り飲んだことのない味でした。

 

好みの味だけれど、

これはなんなのか、度数はどのくらいなのかが分からず、

ほんの数ミリでくらくらするような気がしました。

 

こんなに酔っ払ったことないよお、困ったなあ、

飲みきれるかなあ、と思いつつ、

一緒に出されたナッツをつまみながら、

黙々とちびちびと飲んでいました。

 

しばらくしてマスターが、私のほうへ戻ってきました。

 

「明日はお休みなんですか?」

「あ、いえ、在宅ワークなので(便利な言い訳)、

ほとんどいつでも休みみたいなものです」

「そうなんですか」

「これ、なんてお酒ですか?」

 

やっと聞けた!……。

 

「これは、イエーガーマイスターというハーブリキュールです」

「あ、一回飲んでみたかったんです、嬉しいです」

 

失礼じゃないだろうかと思いつつも、瓶を見せてもらいました。

(こっそり度数をチェック…)

35度と書いてありました。

 

思ったよりは度数低い…!と分かると安心して、

酔いが醒めてきました。

 

しばらくマスターとお話をして、

(音楽の話、一度聞いてみたかった「どうしてバーに勤めているのか」など)

 

飲み終わり、閉店も近いので、

お会計を済ませて、ふたたび外へ出ました。

 

できるだけ明るく広い道を通り、

居酒屋から出てくるサラリーマンを見つつ、

家に着きました。

 

そしてパソコンをつけ、

この前の記事を書いたわけでございます。

 

 

くれぐれも夜道にはお気をつけて。

 

危ないのも分かってるけど、

どうしても一度やってみたかったので

やってしまったぜ!というお話でした。