ひよこ、すずりにむかいて

呼吸は残らないけど文字は残る

昨日、退学した大学の先生と食事に行った③(忘れないために)

改札で一年ぶりくらいに会った先生は、

授業を受けた頃とあまり変わっていなかった。

 

「お久しぶり、思ったよりお元気そうで」と言われ、

(相変わらずです、と返し、)

「こっちです」と、お店の場所に連れて行ってもらった。

 

「今日は何料理ですか?」と聞いたら、

「三ヶ月前にオープンしたイタリアンで、一回行ってみたいと思ってたの」

と、駅の向こうに歩く事になった。

 

川沿いの、細い路地に入った。

 

とても細い道だから、小さいお店なのかなとか、

こんなところにお店なんてあるの、と思いつつ歩くと、

いきなり、暖かい色に光る、白と木目柄が基調のお店が現われた。

テラス席もあった。結構広い。

 

私が恐る恐るドアを開けると店員さん目が合い、先生が後ろから

「予約した西原です」と言った。

 

席に着くとき、何気なく奥の席に座ったら、先生が座らないので

「あっすみません、こういうときって先生(目上の人)が奥に座るんでしたっけ」

と言いかけたら、

「ここね、川沿いの景色が綺麗なんだけど、日下さんそっちでいいの?」

と、景色の良いほうを譲ってくれようとしたようだった。

 

メニューを渡され、お酒は飲める?と聞かれたので、

飲めます、と答えたら、

先生が店員さんに「生ふたつで」と言った。

(ほぼ人生初だったので、感動した。ちょっと大人になった気分だった)

 

乾杯をして、先生が頼んでくれた料理がいくつか来た。

(おしゃれな手書きメニューで、私が慣れなくてあわあわしていたら、

適当に見繕ってくれた。)

何かのメニューでさらっと語源を説明してくれたのだが、忘れてしまった。

 

青柳(貝)と白身魚カルパッチョ(バターっぽいソースだった)、

真鰯とズッキーニのフリット(にんにくの利いたちょっと辛いマヨネーズ)、

きのこのマリネのサラダ(葉っぱのボリュームがあった)……

 

小皿が空くたびに先生がよそってくれて、

私から先生によそう隙がなかった。

 

なんのきっかけかお互いのエジプト好きが発覚した。

どこが好き、と聞かれ、「宗教観ですかね」と答えたら、

私も、と返ってきた。

先生は、海外旅行に行く度に、エジプト展がやっていたら行くらしい。

二人とも、本場(エジプト)にはなかなか怖くて行けないよね、

という話になった。

(同じ大学の先生には、結構ガンガン行く先生もいるらしい)

 

馬刺しのメニューを見て先生が、

「どうしてもダメなのよね、道徳的に。牛も同じなのにね。

アニマル・ファームっていう作品思い出しちゃう、知ってる?」

「タイトルだけ知ってます」

 

と言う話から、

「最近私の部屋に血を吸わない大きい蚊がいて、もう三日も居るんです。

ブーンって音はするから鬱陶しいんですけど、

個体として認識してから可愛そうになっちゃってなかなか殺せないんです。

でも今日ついに…人間って勝手ですよね」

という話しを、少し笑いながらした。

 

最近先生はどうですか、と聞いたら、

「160人の授業の試験の採点、レポートなんだけど、

コピペばっかりでほんとに脱力しちゃう。

零点にするよって言ってあるのに。」

と言っていた。

大学が、カンニングは厳しい罰則があるのにコピぺにはない事を話した。

 

「コピペをみっつくらい貼るのよあの子達」

「3つも貼ると矛盾が出てきちゃいますよね。

私は小心者なので怖くて出来ないです。(笑)」

 

と、レポートの資料を探すときの話で、

「私だったらむしろ、主張するために資料を集めちゃう」

と言ったら、「それが正しいのよ」と。

 

「日下さんは本当にレポート上手だったわ。160人の中に3人居るか居ないかくらい。」

と言われて、とても嬉しかった。

 

「日下さんの世代がゼミに居るけど、YさんとKさん、知ってる?」

と言われ、

「Yさんも知ってるし、Kさんは、小学校と中学校で仲良くて、

大学で一緒になってびっくりしたんです」

という話しをした。

あと、私が「一年生の時、今先生のゼミのS君に何回かデートに誘われて…

全部断ったんですけど」という話しをしたら、

「あらそうなの。…そうなのね。今度のゼミで、日下さんとご飯行ったって言わなくちゃ」とかなりウケていた。

 

あと、彼氏の事を結構聞かれた。

家で料理を作るときに、家庭ごとの食文化の違いを感じる、と言ったら

先生が学生の頃留学した話になって、

「○○(忘れてしまった)の大学は学食ですらこだわりがすごいの。

厨房の隅で八時間煮込んでたわ。イギリス人が怒ってた」

「タイ人とルームメイトだったりもしたわ。

夏にはやっぱり香辛料が効いたのが食べたくなるわね」

「テンプラを作れって言われたり…日本の食材なんて売ってなくて。

スシを作るとき生のサーモンを使ったけど…ちょっと今思うと怖いわね。

スモークサーモンくらいにすればよかった」

と、先生の過去の話がたくさん出てきて、

とても面白かった。

 

「最後に大学で先生を見かけたとき、杖をついてましたね」

「そうなのよ、スキーで。20年ぶりに東京のお医者さんに行ったら、

よくもったほうだっていわれた」

と、先生はちょっぴり笑っていた。

 

「私おなかすいちゃって」と、

サマートリュフをかけたリゾットと

マルゲリータピザ(何か選んで、といわれて、ぎりぎり分かるものを…小心者。)も

頼んで、おいしく食べた。

 

私の家庭の話しなどもし、

(お母さんが子離れできなすぎて重くて面倒なんです…と話したら、

「子離れできないのは困ったわね。お母様も寂しいのね。顔でも出してあげなさい」と

言われたが、不思議と嫌な気持ちはしなかった)

 

今私民謡にはまってて、熊本の「おてもやん」の歌詞に

「イケメンには惚れないけど、タバコケースの金具が素敵、とかで好きになっちゃう」

って歌詞、そういう変なツボ分かるー!って思って…

という話しをしたら、

「わたしだったら、そのころの熊本のタバコケースどんなのって調べちゃうな」

といっていて、さすが先生!と思った。

 

彼氏を好きになったきっかけもそういう変なツボがきっかけで、

(海辺で水切りをして遊んでいて、彼氏がラスト一個ではじめてキメたから)

という話しをしたら、

「一物は万物っていうからね。それで良いと思う。そういうの大事よ」

と言われ、ちょっと安心した。

 

退学の理由を聞かれたので、

「とにかく授業中じっとしていられなくてつらかったんです。

本当に大学は楽しかったし好きでした」

と答えた。

「向こう(海外)の大学だと、結構自由なんだけどね。意見出し合ったりとか。

大学辞めちゃったのは残念だけど、日下さんなら(卒業した人も)すぐ追い抜けると思う」

と。

 

ほかにもカーミラを読みたい、とか、

1950-60くらいのイギリスの女性作家が面白い、とか

(アメリカの小説は結構本質を突くんだけど、

イギリスは礼儀作法に重きを置くから、

ちょっと遠回りだと感じるわ、と言っていた)

会うきっかけになった「高慢と偏見」の話をしたりした。

(女性は結婚するしかなかったんですね、というと、

あれは比較的身分が高くて、身分が低いと女性でも炭鉱で働いたり…

と教えてもらった。)

イギリスの小説は変なのが多いとも言っていた。

 

あと、昔、先生は、今私が住んでいる家の裏くらいに住んでいたらしくて、

もうおそらく家がばれている。

近くのパン屋さんがおいしいことを教えてもらった。

 

 

ワインを赤白いっぱいずつ飲んで、最後に

デザートとホットコーヒーを頼んだ。

 

私のは、リコッタチーズにナッツやドライフルーツが入ったアイス、

先生はチョコレート系のものを頼んでいた。

(結構濃厚で量があったようで、「リッチねこれ」と何回か言っていた。)

コーヒーはあつくて、すっぱめだった。

イタリア系・・・?わからないけど…。

とてもおいしかった。

 

先生がお手洗いに席を立って、荷物持っていくのかぁ、とか

ぼんやり見届けたあと

のんびりアイスを食べていて、

ふとレジのほうを見たら先生がお会計を済ませていた。

(カードだったのか、何かにサインしている動作が見えた)

 

そのあとすっと席に帰ってきて、

わー!!!大人だー!!!すてきだー!!!

と、ますます思った。

 

席が二時間制だったようで、店を出たら、

「この裏のほうにね、結構お店あるのよ。調査しに行きましょ。

川沿いもきれいよ」

と、少し散歩して帰る事になった。

 

木製の階段を下りて、ハーブや樹に囲まれたお店を眺めて、

また来たいなあと思った。

 

帰り道にも数軒面白そうなお店があって、

先生が「今度ここに来ようかしら、大学の先生と」と言っていた。

 

駅に着いて、「楽しかったわ、お元気で」と、先生は改札に入っていった。

 

本当はまたご飯行きたいです。(小声)

私もちょうめっちゃとっても楽しかったです(小声)

 

とってもとってもおいしかった。

店内をバックに、先生が目の前に座っている光景が忘れられません。

 

ごちそうさまでした・・・!(ここでもう一回言う)

 

またお会いしたいけど勇気が出ません……。

 

ながくなっちゃった。では!